住宅FPが解説する住宅購入ガイド


一生で最も大きい買い物といわれる住宅購入。アラサーを迎えると、周囲で住宅を購入したという話を耳にする機会が増えていきます。一方で、賃貸と比べた場合のメリットとデメリットが見えにくい点や、住宅ローンに対する不安から購入をためらっている人も多いでしょう。

この記事では住宅購入について迷っている方に向けて、どのような点を注意しておけばいいのか、要点を絞って専門家の解説とともに紹介していきます。

[監修者プロフィール]

関根 克直さん
2004年に茨城県にて住宅購入相談中心にFPとして開業(現在のオフィスは東京都千代田区)。住宅購入サポート、住宅ローン相談、投資用物件の利回り計算などを得意としています。またTBSの人気番組「ひるおび」の「お財布救助隊」にも出演。チャンネル登録数10万人超えの住宅系YouTuberとしても活動中。

必ずしも家を買うのが正解ではない

いきなり住宅購入に水を差すような話となりますが、住宅購入は誰にとっても「必須のライフイベント」ではありません。

ファイナンシャルプランナーとして1000件以上のライフプランや家計相談に答えてきた関根さんは、「家を買うことがスタンダードな時代ではなくなった」といいます。

「国立社会保障・人口問題研究所の『日本の世帯数の将来推計(全国推計等)』によると、2035年には男性の約3人に1人、女性は約5人に1人が生涯未婚といわれています。
これまでの一般的なライフプランとして挙げられる、

・30代前後で結婚
・子どもは2人以上
・終身雇用で定年まで同じ会社に勤務
・次の世代に住宅を資産として託す

というような生き方は、働き方やライフスタイルの多様化が進んだ今は必ずしも標準的とはいえません。それにともない、住宅購入も昭和から平成初期の頃と違い当たり前ではなくなり、私も相談者全員に対して、一律に住宅購入を勧めるということはしません。

だからこそ、購入を検討している方は、家を買わなければいけないという観念に縛られないことが大切です。自分自身にとって本当に意味のある買い物になるかどうか、将来のライフプランを踏まえて考えましょう」(関根さん)

そもそも持ち家と賃貸って何がどう違うの?

持ち家と賃貸はそれぞれメリットとデメリットが異なります。

※団信…正式には団体信用生命保険といい、住宅ローンを返済中に、死亡や高度障害など万一のことがあった場合に、住宅ローンの借入残高がゼロになる保険。家族の住居を確保することができる。

持ち家のメリットとデメリット

メリットとしては、

1.    住宅ローンの完済後は資産として残る
2.    老後の住居費の負担が軽い
3.    内装や設備のカスタマイズがしやすい
4.    住宅のクオリティが高い
5.    団信に守られる

が挙げられます。

持ち家(購入した戸建て、マンション)は、住宅ローンの返済が完了すれば、自分の資産として手元に残ります。ローン完済後は固定資産税と修繕費用などの維持費はかかるものの、賃貸と違って家賃を支払わなくていいので、老後の家計負担も軽くなります

内装や設備の変更もオーナーに確認しなくていいので、自由にカスタマイズしやすいというのも利点。できるだけコストを抑えて収益を追求する賃貸物件と比べて、同じ新築でも分譲住宅は断熱性能や、キッチンなど住宅設備のスペックが高水準という特徴もあります。

また、住宅ローンを組むときは多くの場合生命保険である団信に加入するので、万一のときも返済が免除される点もメリットといえます。

◆関根さんのアドバイス◆
性能面以外でも、「一国一城の主」の満足感や、転勤族のご家庭と違って子どもたちの帰る実家がある安心感など、メンタル面への好影響も大きな判断材料となります。

一方、デメリットとしては、

1.    住み替えがしにくい
2.    初期費用が賃貸より高くなる
3.    税金がかかる

が挙げられます。

家族構成の変化や転勤などが生じた場合、転居しづらい点は大きなデメリットといえるでしょう。また、仲介手数料や登記費用など、多額の初期費用がかかるのも賃貸と異なる注意点です。購入後は固定資産税や都市計画税が毎年課税されます。

◆関根さんのアドバイス◆
『老後の安定した家計づくりを今から準備したい』という人や、『子供に資産を残したい』という人は購入が向いていると思います。またリモートワークが中心の人にとっては自宅にいる時間が長くなった分、住環境に求める価値が高まりつつある点も検討のポイント。その点を踏まえ、設備や間取りについて、自分好みの住環境にしたいという人にとって持ち家は魅力的です。

賃貸のメリットとデメリット

賃貸のメリット以下の4つが挙げられます。

1.    家族構成やライフスタイルに応じて引っ越しやすい
2.    ローン審査がないので転居までのハードルが低い
3.    修繕などの維持費や税金がかからない

賃貸は持ち家と比べて初期費用も安価で、ローン審査もないため状況に合わせて引っ越しやすい点がメリットです。修繕費用や税金の負担もなく、維持費が安い点もポイント。また購入しようとすると高額な都市部の好立地な物件も、賃貸だからこそ月々の負担で済む家賃で住めるという点もメリットといえます。

一方で、デメリットとしては一生涯家賃の支払いが続くことや、老後は勤労収入が少なくなり、引っ越しの際に入居審査が通りにくくなるリスクが挙げられます。

◆関根さんのアドバイス◆
年齢や家族構成に応じて価値観や住宅ニーズは変わります。転勤にあわせて職住近接の観点から引っ越しする際などは、賃貸の方が柔軟に住み替えできるので、『自由に生活環境を変えたい』という方は賃貸の方が向いているといえます。また会社から多額の家賃補助が支給されている人は、年齢制限にかかる時期まで賃貸で住み続けて、恩恵分は将来の老後資金や住宅購入資金に回すという選択肢もあります。

家を買うまでの流れ

住宅を買うまでの流れは以下の通りです。

1.ライフプランを立てる
2.予算を決める
3.物件を決める
4.ローンを申し込む
5.契約
6.入居

住宅購入までの流れはこの通りですが、持ち家は手続きや費用の面から簡単に売買ができません。購入後に後悔しないためにも、後述する3つのポイントを必ず確認しておきましょう。

家を買う前に絶対に決めておきたい3つのコト 

1.    ライフプラン(働き方、家族、ライフスタイル、親の介護など)
2.    予算(頭金、諸費用、借入額、毎月の返済額など)
3.    地域(ハザードマップ、地域住民のカラーなど)

1.ライフプラン

まず確認しておきたいのがライフプランです。

・将来的に勤務先や収入の変化はありそうか
出産や子どもの希望人数は決まっているか
・夫婦共働きなら今後出産などで収入減はないか
・子どもの進学は公立か私立か
親の介護のため同居の可能性はあるか

……など、もちろん先のことはわからないという人も多いでしょう。しかし、資金計画に影響するライフイベントについては、必ず住宅購入の前に一度整理しておきましょう。

◆関根さんのアドバイス◆
ざっくりとした計画でいいので、一度向こう20〜30年のご自身や家族の年齢と収入の変化を書き出してみましょう。ライフプランが立っていれば、必要な資金も自ずと見えていきます。確保しておきたいお金が見えることで、毎月のローン返済額も現実的な金額で計画できるはずです。

2.予算

住宅購入にかかる費用は「物件価格+諸費用」です。諸費用は物件価格の5~8%がかかります。

総予算は、物件価格以外にもかかる点を念頭に置き、以下の項目をみていきましょう。

■ローン返済額
よほど資金がある人でない限り、金融機関で住宅ローンを組んで購入します。ただ、気をつけたいのは毎月のローン返済額が、今支払っている家賃と同額ならOKではないということ。

持ち家はローン返済額以外に修繕費用や税金がかかるため、ゆとりを持って設定しておくのが基本です。

あくまで目安ですが、家計を圧迫しないためにも、毎月のローン返済額や修繕積立金、管理費などの住居にかかる費用は「手取り月収の25%」の範囲内を基準としましょう。たとえば手取り月収35万円の方なら、「35万円×25%=8万7500円」がひとつの目安となります。

■借入額
不動産会社は高い物件を売るほど収益がアップするため、購入検討者に対して可能な範囲で金融機関からたくさんのお金を借りさせて、高い物件を買うことを薦めるケースもゼロではありません。借入額(融資額)は契約者の年齢や収入、勤務先や預貯金などさまざまな条件に応じて変動します。

さらに注意したいのは、「借りられる金額=返せる金額」ではないということ。前述した通り、金融機関は年齢や収入、勤務状況などに応じて融資額(お金を借りる人にとっては借入額)を決定します。一般的には、上場企業や大手企業の会社員や公務員ほど借りられるお金は大きくなります。しかし、お金を借りる人は、子どもの進学費の積立やマイカーの駐車場や維持費など、家計支出の内訳や金額はさまざま。それらはローン返済に充てられるお金にも大きな影響を及ぼします。そのため、「借りられるお金」が将来その人が返済できる金額とは限りません。あくまで「毎月の返済額」をベースに慎重に借入額を検討しましょう。

■頭金
戸建てかマンションかによって差はあるものの、およそ物件価格の5~8%が初期費用としてかかります。基本的にこれらの初期費用はローンによる借入金ではなく、現金である頭金のなかから支払います。自身で要否がコントロールできる家具・家電購入などは別として、初期費用の内訳である印紙税や登録免許税、引っ越し費用などは取り除いたり、値引いたりすることが難しいものばかり。そのため、頭金は余裕を持って準備しておきましょう。  

■相場
住宅購入の予算はその人の収入や居住地、ライフプランに応じて大きく変わるため、適切な金額は人それぞれ。ただ、みんながいくらの物件を買っているのか、一般的な費用相場が気になる人も多いでしょう。

住宅金融支援機構が実施している「フラット35利用者調査(2022年度)」によると、購入価格の全国平均は

・新築戸建て(土地付注文住宅):4,694.1万円
・新築戸建て(建売):3,719.0万円
・中古戸建て:2,703.6万円
・新築マンション:4,848.4万円
・中古マンション:3,156.9万円

となっています。あくまで参考値としておさえておきましょう。

◆関根さんのアドバイス◆
予算はライフプランファーストで、年収と同じくらい年齢が大切です。無理のない返済額の参考として「手取り月収の25%」と紹介しましたが、それだけで返済計画や購入物件の金額を決めるのはNGです。予算は子どもの進学費や家族構成など、ライフプラン次第で大きく変動するので、誰にでも当てはまるものではありません。

とはいえ、現在の年収や頭金から算出すると、思った以上に購入できる物件価格が低く、選択肢が限られるというケースもあるでしょう。ただ、どうしても住みたい物件がある場合は思い切って予算を上げ、それを機に自身のキャリアアップを計画し、そこから収入力を高めていく、という考え方も豊かな人生を送るためには有意義だと思います。

3.地域

職場や親族との距離なども含めたライフプランを踏まえ、複合的な条件で居住地を検討しましょう。特に親族が近くに住んでいると、子育てに協力してもらえたり、購入者自身が住み慣れた街であれば心理的な安心感も大きいはず。

また地域によって地震や土砂災害、洪水などの災害リスクは異なります。各自治体や政府のハザードマップで居住地域の状況をチェックしておきましょう。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
https://disaportal.gsi.go.jp/index.html

そのほか、定量化しにくいデータとして、地域によって街そのものの雰囲気や文化、住民のカラーも異なります。

—関根さんのアドバイス—
注意したいのは子どもの学区にこだわって家を探すこと。ただでさえ都心部は物件が少なくなっています。色々な相談を受けてきた経験上、限定された学区で予算や広さなどの条件をクリアした物件を見つけることは難しく、あまりお勧めできません。それよりも地域選びで重要なのは、検討地域を徒歩で散策してみること。ゴミ出しのルールが守られているか、夜間でも車や人の交通量は多いかなど、風紀や治安の様子をみておきましょう。また地域のトラブルメーカー的な要注意人物が住んでいる場合もあります。心配なようでしたら仲介業者から売り主側の仲介業者に確認をしてもらうことをお勧めします。

物件価格はどうやって決まる?

住宅価格は市場の需要と供給のバランスで決まります。ただし、需給に関わる要因として、以下のような項目があります。

1.地域
2.駅からの距離
3.戸建てorマンション
4.新築or中古
5.敷地、延床面積
6.所有権or借地権

1.地域、3.戸建てorマンション、4.新築or中古の違いを示すデータとして、住宅金融支援機構の以下のデータを置いておきます。首都圏とそれ以外では特に大きな差があることがわかります。

■住宅購入価額の平均値


※単位は万円。住宅金融支援機構「2022年度フラット35利用者調査」より。「新築戸建て(土地付き注文)」は建設費と土地取得費の合算額

6.所有権or借地権は聞き慣れないかもしれませんが、所有権は文字通り土地の所有者となること、借地権は一般的に土地を借りて建物のみ所有者となる購入形態を指します。所有権は月々支払う地代や定期的な更新料がかからず、建て替えや売買にあたって土地所有者の承諾を得ずに済むので自由度が高いことが利点です。ただ、そのぶん費用は高くなります。

◆関根さんのアドバイス◆
都心の住宅価格は2022年に一度ピークを迎えて落ち着いたものの、依然としてマンションを中心に流通量は少なく価格水準は高くなっています。物件選びの際は、似たような広さや築年数の周辺物件の相場も必ずチェックしておきましょう。相場とかけ離れた金額なら、率直に不動産業者に尋ねてみるのが鉄則です。

家を買った“あと”のことも知っておく

持ち家は賃貸と違って購入したあとの維持費がかかります。内訳としては、固定資産税と修繕費です。

あくまで目安ですが、土地2000万円、建物1000万円の物件を購入したとして、固定資産税は20年で200万円ほど。

一方で修繕費は20年で300万円ほどは覚悟しておきましょう。

■修繕費の目安
 

これらの費用は毎月自身が積み立てておく必要があります。マンションの場合、外壁などの共有部は毎月管理組合に支払う修繕積立金が充当されますが、フローリングや壁紙などの居住室内の専有部は自身で積立しておきましょう。

◆関根さんのアドバイス◆
マンションの場合、販売された当初と比べて修繕積立金は上がっていくのが一般的です。多くの場合、5年おきに値上がりし、最終的には2倍から3倍になります。また管理費はここ30年ほど値上がりしませんでしたが、現在は物価上昇により値上げするマンションが続出している点も知っておきましょう。

家を買うリスクってあるの?

住宅は大きな買い物だけに、「ローンを無事に完済できるかな」と不安を抱く人もいるでしょう。またそれ以外にも、念のためおさえておきたいリスクを整理しておきましょう。

1.資産価値の下落
都市部以外でも、地域によっては行政の再開発が進んで地価が上がっていることもあります。一方で、過当競争や人口減少を背景に地価が伸び悩み、該当地域の住宅価格が下がるケースもあります。

2.災害
地震や水害によって家屋に被害が生じる可能性はどの地域でも逃れることはできません。被害に遭った住居は簡単には売買できないため、建て替えや改修費用がかかることもあります。

3.引っ越しできない
原則として住宅ローンで購入した物件は、完済するまでほかの人に賃貸物件として提供することはできません。近隣住民とのトラブルなど、何らかの事情で引っ越ししたい場合も、売却まで時間と手間を要するリスクがあります。

—関根さんのアドバイス—
天災や資産価値の下落リスクは自身でコントロールできません。リスクを避けて住宅購入を諦めるのではなく、購入することで得られる体験やライフスタイルなど、総合的に評価して検討したいですね。

住宅購入を後押しする制度もある

住宅は大きな買い物であるため、経済活性化に少なからず影響を及ぼします。そのため国は各種税制優遇を用意し、住宅購入を後押ししています。

住宅ローン減税

住宅ローンを利用して住まいを購入した場合に、「年末時点での住宅ローンの残高の0.7%」が、入居時から最長13年間にわたって、給与などから納めた所得税や住民税から控除される制度を指します(2022年1月から2025年12月末までに住み始める場合)。たとえば2024年に子育て世帯の方が4000万円を借りて「省エネ基準適合住宅」を購入して入居した場合、「4000万円×0.7%=28万円」も税負担が軽くなります。なお適用される住宅ローンの残高は上限があります。

贈与税非課税措置

父母や祖父母などから、住宅の新築や増改築等の資金贈与を受けた場合に、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。一般住宅は500万円、省エネ性能要件を満たした新築住宅は1000万円まで贈与税が非課税となります。

まとめ

住宅購入は勢い任せで決めるものではなく、ライフプランや資金計画に基づいた判断が重要です。ただ、住宅ローンは若い人ほど借りやすく、また返済期間が長いため自身の資金計画に有利に働きやすいのも事実。自身や家族と家を買うと決めたなら、早めに物件選びを検討してみましょう。

 

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